「日出処の天子」2

再び、大和川を遡り、急流の亀の瀬で軍船から小舟に乗り移り、飛鳥に入った小舟は東漢氏の一大軍事基地に辷り込んだ。 「太子様、長がお待ちです」 「ダンの太子を同道したと親父殿に伝えてくれ」 「日下の物見から連絡が入り、ご承知です」 「油断も隙もないな」  飛鳥桧隅館の門前は杖刀を突いた衛兵が整列していた。 「ひい、ふう、みい、よ、いつ、むう、なな、や、ありがとう」  門内には多数の館が並び常時、数千人が住まわっている。杖刀を預け、長の館に繋がる迎賓館に上がり、趺座(ふざ)する間もなく、長が出座した。 「弾殿、よう参られた。お父上は息災かな」 「至って元気でございます。東漢の長殿には宜しくとの言付けでございます」 「あい分かった」 礼尾が父親に、 「早耳から聞きましたが、豪族達の動静に注意を払うよう命ぜられたそうで」 「うむ、腹を括った。頼むぞ」 「畏まりました。手始めに何から手を」 「まず、太秦に行ってくれ。河勝殿の父君の五年忌に陵墓を完成させる約定をしておる。進捗状況と石材の切出し具合の報告を兼ねて、絹織物調達の責任者としてな」 「して、狙いは」 「絹織物の調達反数を五割ほど増やす提示をするのじゃ。さすれば扶桑国も潤うであろう。弾殿、礼尾に同行して頂けるかな、太秦の状況を把握して来てくだされ」 「承知しました。傘下の手練れを引き連れてまいります」 「西漢の長殿には、我から願いを出します故、今宵はゆるりとお寛ぎ下され。だれぞ、酒と肴をもて」 「親父殿、次郎達と杖刀の兵を率いて行っても宜しいですか、帰りは木津川廻りで物見をして参ります。」 「兵の鍛錬と示威行動か、良かろう、呉々も衝突しないようにな」 夜も更け、酔い潰れた若者二人は寝所に運ばれた。