礼尾たちは木津川を遡上し、本流が東へ向かう木津付近で支流に入り三笠山が近くに見える場所で下船した。 「今日はここで野営をするぞ。次郎、明日は佐保川で小舟を調達しよう。先に行って捜してくれ」 「太子様、石を運ぶ船を佐保川に係留しております」 「そうか、頭の船があるか、次郎、頭と先行してくれ」 「兄者は何処へ」 「少し、西へ向かって、生駒山麓を南に進み平群の里を探索して見る」 「太子様、生駒を越えると直ぐに石切場があります。ついでに見てきてください。見習いの石工に案内させます故、連れて行ってください」 「分かった、明日は隊を二つに分けて物見の演習を兼ねる。次郎は頭と三笠山麓を探索しながら進んでくれ、斑鳩の東側の佐保川で合流しよう」 夜が白み、三笠山から朝陽が昇り、その向こうに大きく三輪山が望め、天香具山、耳成山、畝傍山の三山が低く見える。纏向の王宮や飛鳥の桧隅を挿み生駒連峰と葛城連峰が連なって朝陽に輝いていた。平群はその手前にある。朝餉を手早く済ませた一行は整列し、礼尾の前にいた。 「演習の物見だが気を緩めずに進んでくれ、次郎お前達は、春日氏や和邇氏の領地を通過する、衝突は避けろ」 礼尾たちは西に向かう木津川の支流に沿って生駒山麓に向かった。菜の花や、杏の花が一面に咲き、山際に、ちらほらと集落が見えていた。 礼尾は一番立派な屋敷を訪い。 「主殿は居られるか」 「我がそうだが、何か用か」 「東漢の太子、礼尾と申します。断りなく、平群の里を通りますこと、お許し下され」 「東漢の後継ぎか、田畑を荒らさずに通られよ」 「かたじけない。主殿は和邇殿の血縁であられるか」 「いや、我は早くからこの地を耕す、苗(みゃお)族の裔でござる。言い伝えでは南の海の遥か向こうのメコンと言う川を下りオケオの港から稲を持って渡って来たそうじゃ」 「そうでしたか、古に入植されたと聞き及びます」 「多くは新来の豪族の庇護の元に入ったがの、苦労はしておる」 「あれに見えるのは、苗代ですか、田植えで、お手が足りない時は、お声掛け下され」 「東漢(やまとのあや)は祭祀が専らと思うていたが」 「陵墓作りも、灌漑用水作りも、何なりとやりまする」 礼尾は暇を告げ、兵を率い、石工見習いの案内で石切場に向かった。生駒山の北麓を上り切ると、石工見習いが、 「太子様、あれが石切場です」 眼下に石工達の立ち働く姿が真下に望めた。礼尾たちは一気に駆け下り近付くと、石切場に緊張が走り、多くの石工や衛兵が杖刀を手に戦闘態勢を取った。慌てた、石工見習いが、 「お待ち下さい。太子様の案内を、お頭に命ぜられました。突然に現れて申し訳ありません」 「東漢の太子の礼尾です。驚かして済まない。宜しく頼みます」 石切場の頭が進み出て。 「よう、お越し下されました。丁度、太秦の先代様の陵墓に使います、石材を切出しておりました」 「そうか、昨日、太秦へ石工頭と同道して河勝殿に状況報告をして参った。百聞は一見にしかずじゃ、案内してくれ」 「大王様のお加減が悪いと、風の噂で聞いておりますが」 「我も伝聞であるが、あと半年程と聞いておる」 「此処も忙しくなりますな、人の手当てを心掛けまする。少し南に二上山がありますが、山師が良い石材が取れそうだと知らせて参りました」 「そうか、次の物見の時に行って見よう」