「日出処の天子」6

 大和川との合流地点に差し掛かり船は切り返す様にして大和川を遡上、飛鳥の檜隈に入り、礼尾は父親の館を訪れ太秦と物見の報告を済ませた。

 「礼尾、平群をダン族の根拠地にしてもらおうかの。太秦の河勝が纏向に入るのを抑えられようし、葛城や三輪の牽制にもなろうし、河内からは生駒山を挟んで隣り合っていて容易く進出できよう。斑鳩はお前が掌握する地均しに入れ。それから、王宮警護の人数も増やそう」

 翌日、弾が飛鳥檜隈館を訪れた。

「太秦は活気に溢れております。機織りの工房、どこでも沢山の男や女がテキパキと働いており、市場にも物が溢れ、ごった返しておりました。礼尾たちが太秦を離れて直ぐに館から物見が繰り出されましたので、我ら速やかに撤収いたしました。太秦侮れず見ました」

「お手数を掛けました。礼尾の物見の報告と併せて考えたのじゃが、ダン族の根拠地を早急に平群に移して下さらんか、河内からは生駒山系を越えれば平群じゃ。木津川を上って川勝が纏向の王宮に向かうのを牽制できようし、南隣の葛城や向かいの春日や和爾への睨みにもなろう。礼尾の物見では豪族はおらず、苗族の長だけじゃそうだ。懐柔して進出して下さらんか。お父上には今、手紙を認めますので、お持ち下され」

 平成二十三年五月、上雉大学紀尾井町キャンパスの部活室で古代史サークルのメンバーが、学園祭の発表テーマを話あっていた。ヘブライ語が得意な島津孝明が口火を切り。

「ヘブライ語と日本語の共通点はどうかな、カゴメ歌やヒー、フー、ミーの数詞はヘブライ語で神を賛美する祝詞なんだ」

 シメオン族の末裔と揶揄われる西園寺公義が、

「三笠宮様がヘブライ語に精通されておられうそうだね。それなら、秦王国を取り上げようや、幅広く語れるよ」

 平成の宮子と囃される、津守香苗が、

「秦王国シメオン族の末裔が不比等よ、その血脈が今の日本のエスタブリッシュメント主流なんだから、いくらでも広げられるは」

 卑弥呼の再臨を自称する太田美佳が、

「不比等の隠れ妻の宮子はガド族の娘で息子の聖武天皇をミカドと呼ばせたのよね」

 丸に十の字のTシャツ着た島津は、

「オイオイ、広げすぎだよ。秦王国に絞ろうぜ。次回は秦王国の歴史を持ち寄ろう」

 西園寺が、

「持ち寄るで思い出したけど東日本大震災の支援物資を来週持ち寄ろうぜ」