平成二十三年七月、上雉大学紀尾井町キャンパスは期末試験を終えた古代史サークルのメンバーが三々五々部室に集合していた。
三笠宮に似て鷲鼻の西園寺が、
「島津、何処かオムライスの美味しい店を知らないか」
「西園寺が驕ってくれるのか」
「公爵様に恐れ多い」
「お前も公爵家だろ」
三つ編みの黒髪を躍らせて、香苗が部室に入り、
「二人で何の話、秦王国の歴史、調べてきたわよ。アレキサンダーの東征から語らないとダメね」
栗色のポニーテールを靡かせて美佳も部室に入り、
「私もシメオン族のこと調べたわよ。ガド族とセットで説明しないといけないわね」
新入部員の坂上大二郎と黒木麗華が口を揃えて、
「チンプンカンプンです。詳しく聞かせてください」
香苗と美佳が語り始めた。
「マケドニアのアレクサンダー大王は怒涛の東征から帰還し、BC323年、ペルシャの古都、バビロンで病没します」
「東征に従事していたシメオン族の中から総督の地位に就いていた、ディオドトスがBC256年、現在のアフガニスタンの北部にバクトリア王国・大秦国を建国します」
「ディオドトスはアレキサンダー大王の野望を継ぎ、BC246年、中国に侵攻し、BC221年、秦帝国を建国し始皇帝を名乗ります」
「始皇帝は出自を粉飾するため偽史を編ませます。歴史を熟知する孔子や孟子のガド族はシメオン族と敵対関係に入り、BC213年、焚書坑儒の対象となります。ガド族はユダヤ北朝系から、南朝系に衣替えし遼東半島経由で朝鮮半島東岸に逃亡します」
「始皇帝が崩御し、BC210年、秦帝国は崩壊に向かい、シメオン族の遺民は遼東半島に向かいます」
「ガド族は対馬経由で博多に渡来し、BC86年、伊勢国を建国します。猿田彦一世は初代王に即位し、吉武高木に王宮を造り、ヘレニズム文化を列島に持ち込み、銅鏡、銅鐸、銅剣などを作り祭祀を執り行います」
「シメオン族は、筑紫の東表国から、BC74年、吉野ヶ里の地の割譲を受け、渡来し委奴国を建国、大国主命を初代王に推戴します」
「国力を充実させたシメオン族の委奴国は、AD163年、博多の猿田彦の王宮を急襲し太陽神殿と超大型青銅鏡などを悉く破壊し伊勢国を滅ぼし、大国主命の委奴国は博多に遷都します。敗れたガド族達は日本海と瀬戸内の二手に分かれて東遷し、先着していた同族を頼り、一隊は素戔嗚尊が建国した出雲王朝に合流し、一隊は大和に入り東鯷国を建国します」
「東扶余の磐余彦命がAD210年、北倭軍を率い、遼東の公孫氏の大物主命と連携し委奴国を挟撃します。委奴国の人々は三年間、勇敢に戦いますが、AD213年、大国主命が流れ矢に当り戦死し、戦意を喪失した委奴国の人々は二手に分かれて東遷します。一隊は土師氏が率い日本海を東に走り、素戔嗚尊とガド族の出雲王朝を侵略します。本隊は大国主命の長男が率い瀬戸内を東遷、各地のガド族のコロニーを殲滅しながら、二十年掛けて茅渟の海から河内湾に入り、摂津の日下から猿田彦の東鯷国を攻めますが、撃退され熊野廻りで再び侵攻し東鯷国を滅ぼし、大和の地に秦王国を建国します」
西園寺がげんなりとして、
「長いよ、腹ペコだよ、昼飯にしようや」
島津が嬉しそうに、
「四ツ谷駅の向こうにオムライスの美味い店があります。西園寺公爵の奢りで行きますか」
北門を出た、古代史サークルのメンバーは新宿通りの信号を渡り、四ツ谷駅を右手に、外堀通りを渡り洋食店に入りオムライスを注文した。
ガド族津守氏の裔と謂われる香苗が料理の出来るまでの間も惜しそうに喋り始めた。
「ガド族とシメオン族と扶余族の争いは、様々な国宝を私達に残してくれたのよ」
大二郎と麗華が、また口を揃えて、
「どういうことですか」
「博多の吉武高木と平原遺跡からガド族の祭祀道具をシメオン族が徹底破砕した時の、超大型青銅鏡など、多数が発掘され博物館に飾られ国宝に指定されたは」
シバの女王の血を引く卑弥呼を彷彿させる神秘的な雰囲気の美佳も、
「出雲では荒神谷遺跡と加茂岩倉遺跡からシメオン族の侵略を察知した、ガド族の人々が埋伏した銅鐸、銅剣などが大量に発掘され、博物館に収蔵され国宝に指定されたのよ」
続けて、香苗が、
「博多の志賀島からは扶余族の侵攻で、シメオン族の大国主命が戦死し戦意を喪失した土師氏達が船に乗って慌てて出雲へ向かうとき、大国主命が後漢の光武帝から贈られた漢委奴国王の金印を紛失したものが江戸時代に発見され、現在は博物館に保管展示され、国宝に指定されてるは。残念ながら、どの国宝も誰がなぜ残したかは、必ずしも明確に示されていないのよ」
西園寺が、
「明確にされてないと言えば、福島第二の事故経緯が明確にならんな」
そこにオムライスが運ばれ会話が途切れた。