飛鳥に三年の春秋が過ぎ、礼尾は比呂仁和の殯を終え、完成した島の庄の南の陵墓に比呂仁和の棺を据え亡骸を丁重に葬ります。上円下方墳の壮大な陵であった。
礼尾は東漢の主だった者を集めた。
「予てよりの宿願、筑紫奪還の準備に入る。先ず旧都でもある周防の柳井水道を目指して軍を進める。皆々、宜しく頼む」
「畏まりました」
礼尾は続けて、
「次郎、留守の間の総責任者を任ずる」
「畏まりました」
「三郎、別働隊の責任者を任ずる」
「畏まりました」
「太子、瀬戸内隊の副官を任ずる。播磨、備前に先発してくれ」
「畏まりました」
「詳細はこれから詰める。皆にも責任者に就任して貰う故、心して下され」
「畏まりました」
礼尾は平群の長になっていた、弾に使いを出し、飛鳥の王宮で懇談した。
「弾殿、果音様は元気にしておられるか」
「おうよ、後宮の取締りに就いておる。厳しくて敵わん」
「そうであったか、詩音も同じで我も首根っこを押さえられておるは。所で、来て頂いたのは、お気づきかも知れんが筑紫奪還に掛かりたい」
「腹を括られたか、全面的に協力する」
「宜しくお願いします。先ずは、周防の柳井水道に前進基地を建設したい」
「若き日を思い出すな、血が騒ぐ」
暫くして、礼尾は豪族会議を招集した。
「急な呼びかけにお集まり下され恐縮でござる。十四代様の遺言であり、秦王国の悲願でもある、筑紫奪還の軍議ご承認を賜り、ご協力の承引願いたく、ご参集頂きました」
太秦の河勝が、
「筑紫の奪還は我も十四代様から度々聴かされておる。諸手を挙げて賛同いたす。更なる殖産振興の一助となりましょう」
三輪の長が、
「我らにも筑紫は故郷の地、賛同いたす」
葛城の長は、
「筑紫の向こうには阿蘇山があり、その向こうには多婆羅国がある。一度は見てみたいものよ。我も賛同いたす」
粗方の賛同を得て、礼尾は、
「賛同、ありがとうござる。ついては、手勢を率いての太子様または御自らの御参軍をお願いいたす」
平群の長の弾が、
「我は血が騒ぐ性質ゆえ、我が参軍いたす」
そうして、豪族会議の賛同を得た礼尾は、軍船造り、武具作りの追い込みに掛かると共に、文身国、扶桑国、出雲国に協力を求める使者を派遣した。
伊勢の伊雑宮には娘を嫁がせる使者を立て、東日流の荒吐五王国にも筑紫奪還の軍事を発する旨の連絡を出した。
居館に戻った礼尾は、詩音を呼び、
「座右留殿は未だ元気で居られるか」
「いえ、足腰が弱り、私の弟の紫門に代を譲りました」
「そうであったか、それでは紫門殿に王宮に顔を出すように伝えてくれ」
「分かりました、筑紫の話ですね」
「そうじゃ」
「夜陰に伺わせます」
「そうしてくれ」