柳井水道の本営に全船団の責任者を招集した足庭は、
「長らくお待たせ申した。偵察部隊が戻り復命を得、筑紫への進発を決断いたしました。筑紫の倭国は今、安羅大伴王家の女王、額田王が率いております。諸般の事情、情報から我らが進攻しても周辺諸国、関係国から援軍が来ることはありません。可及的速やかに全軍で進発いたしますこと、御承引賜りたい」
平群の弾が、
「待ちかねておったは。否も応も無く承引いたす」
河勝に代わり新着していた太秦の太子が、
「間に合って良かった、我も承引いたす」
三輪の太子が、
「やっと、祖先の地が踏めまする。我も承引いたす」
足庭が承けて、
「御承引ありがとうござる。秋の台風に見舞われる前、稲の刈取りの前、長門の深川湾に待機しております船団に伝令が届き復命を確認出来る七日後に進発いたします」
河野の長が、
「概ねの、戦略と配置をお示し下され」
足庭が答えて、
「我等の損害が極力無きよう、大軍団の姿を見せつけて、相手の戦意を失わせ、筑紫の地から逃亡させる戦略を執りまする。玄界灘から響灘の沖にずらっと我らの船団が浮かび、カゴメ紋の幡を掲げます。豊前の瀬戸内側にも船団を浮かべます」
平群の長の弾が、
「戦わずして勝か、腕が奮えんな」
足庭が、
「大和の次代を担う若者に多数、参軍していただいております。命は大事にして参りたい。河野の長殿、宗像衆も大国主様の委奴国の民でございますな、至急に連絡を取り、静観するよう伝えて下され」
河野の長が、
「畏まりました。同族と戦うのは避けとうござる。配慮、痛み入りまする」
足庭が、
「弾殿、抵抗する者も、掃討戦もありまする。油断せずに参ろう。壱岐、対馬にも使者を送ろう。誰ぞ行ってくれぬか」
河野の長が、
「我等が参り申そう、お任せあれ。宗像衆に案内させまする」
足庭が、
「それがよろしかろう、頼みまする。必要であれば、東漢に支援させまする。船団の配置でござるが、玄界灘の西から第一船団の平群隊、東漢の坂上隊、檜隈隊、それに河野隊、三郎の出雲隊、東日流隊。その次に第二船団の東漢の本隊、太郎の飛鳥隊、身狭隊、川原隊、その後に三輪隊、葛城隊、和爾隊、太秦隊が並びます。豊前の瀬戸内側に東漢の太子隊、呉原隊、その後に蘇我隊、寒川隊、塩飽隊、直島隊、笠岡隊が並びまする」
平群の弾が、
「兵站の段取りは」
東漢の太子が、
「兵站部隊に三日分の食料を積ませ一日遅れで届けまする」
足庭が補足して、上陸部隊は掃討と共に食料と水の確保を念頭に進んで下され。弾殿には何時もご苦労を掛けまするが、末盧国の動向が判然と致しませぬ。斥候を出しながら進んで下され。食糧は多めに積んで下され」
弾が、
「あい分かった」
足庭が更に、
「三日分で足りぬと判断されれば、追加で補給を考えまする。上陸されましたら極力、田畑を荒らさぬ配慮を願いまする。秋の刈取りは我等も参加して相伴に預かる所存でござる。宜しくお願いします」