「日出処の天子」21

 足庭達は吉野ケ里で野営し、翌朝、更に西へ向かい小城を目指した。昼前、背振山地沿いに出した斥候が戻り、末盧上陸部隊の坂上隊が末盧川を遡り多久の里に到着したことと小城の里に末盧国の王族が入里していると報告した。足庭は坂上隊に伝令を出し、夕刻前に小城の里を東西から囲う旨、指示した。

夕刻前、足庭達の本隊は小城の里の東側に陣取りカゴメ紋の幡を掲げた。坂上隊は西側山地からカゴメ紋の幡を掲げた。暫く後、身狭隊の隊長に音声を上げさせた。

「我ら秦王国改め俀国の連合軍でござる。末盧国は古、東表国を作った人々と同じアラビア海のメルッハから渡来されたと聞き及びます。我等は東表国から吉野ヶ里の割譲を受けた大国様の裔に当たります十四代様から秦王国を引き継ぎました。末盧国と友好的な関係を結びたく存ずる」

 暫くして、小城の里に白旗と蛇神・トウビョウの幡が掲げられ、

「我ら末盧国は俀国に敵対する積りはござらぬ。末盧国の本領安堵を約束して下されば協力いたす」

 足庭は身狭隊の隊長に本領安堵応諾の音声を上げさせた。

 小城の里は開門され、足庭は入里し、末盧国の王族との面会に臨んだ。

「明日、坂上隊に末盧国の久里の王宮に送らせます故、今宵はこの小城の里で昔話を聞かせて下され」

「足庭殿と、お呼びして宜しいかな。我等の祖はアラビア海でメルッハ国を建てていたそうじゃが、フェニキア人やエブス人達とインドに入り、ソロモンのアンガ国、アルワドのコーサラ国と共に我等はマツラ国を作り、インド十六国時代の一翼を担っていたそうじゃ」

「何時頃の事でござるかな」

「ソロモンのタルシシ船が走り回った、二千年程前の事じゃそうじゃ。その頃にタルシシの採鉱船団が国東半島の重藤海岸に大量の砂鉄層を発見して一大製鉄基地に発展したそうじゃ」

「それが、東表国建国の礎になるわけですな」

「それで、我等の先祖も海を渡り末盧国を建てたのじゃ」

 翌朝、足庭は末盧の王族を坂上隊に送らせ、南に向きを変え、有明海を目指して進んだ。昼前に柳川の里が見え、有明海が一望できる場所に到達した。有明海には既に弾が率いる平群隊、東日流隊、河野隊などの船団がカゴメ紋の幡を掲げて浮かんでいた。

 足庭は船を調達し筑後川を下らせ、弾達に柳川の里を海上から封鎖するよう伝令した。

 足庭は陸側から柳川の里を封鎖し、全隊にカゴメ紋の旗を掲げさせ、身狭隊の隊長に音声を上げさせた。

「我等は大国主様の末裔に連なる秦王国改め俀国の連合軍ござる。友好的な関係を結びたく存ずる。ご開門願いたい」

 柳川の里から声が上がり、

「我らはその昔、猿田彦様の博多伊勢国の民でゼブルン族の末裔でござる。本領安堵を約束して下されば、協力いたしまする」

 足庭は葛城の太子に船の帆にカゴメ紋とブルゾン族の幡を掲げさせ、声を上げさせた。

「我等もゼルブン族の末裔で猿田彦様の博多伊勢国から大和に参り葛城の地を領有しております葛城の太子でござる。ご安堵あれ」

 柳川の里から歓声が上がり開門された。足庭達は入里し柳川の里の長達と会談に臨んだ。

「柳川の長殿、開門頂きありがとうござる。俀国の天子、足庭でござる。大和にはゼルブン族の葛城氏だけでなくイカッサル族の三輪氏もおります。猿田彦の伊雑宮には先代の時から、我等の娘を嫁がせて親戚付合いをしてござる。ご安堵あれ」

「猿田彦様の伊雑宮は何処にござるか」

「大和盆地の南東にあり志摩半島と言う絶景の地にござる。先代の広庭の命で妹の嫁入りの使者に参りました。処で長殿の祖先は、なぜ柳川に入られたのじゃ」

「それがのう、博多伊勢国猿田彦の二代様が九州一円にヘレニズム文化と太陽神を広める巡行をされるに当り、我等は船で博多湾から有明海に回り、この地の安全確保に先行しましたのじゃ、その後はご存知と思いますが、シメオン族の大国主様が東表国から吉野ヶ里の割譲を受けられ委奴国を建国された後、博多の猿田彦様の太陽神殿を急襲し徹底破壊され、博多伊勢国の皆様は東遷され、我等はこの地に取り残されたのじゃ。その後、北扶余からニギハヤヒ様が天の鳥船に乗って、同族の先達である陜父様が開いた肥後の多婆羅国に参入された、我等はその物部軍団に組み込まれました。追う様に東扶余からイワレヒコ様が北倭軍を率いて攻めて参った。我等、物部軍団と共に決死の覚悟で戦い、北倭軍を撃退したのじゃが、東表国のエビス王家が仲介に入り、ニギハヤヒ様とイワレヒコ様は手打ちをされた。我等はそのまま、この地を安堵されましたのじゃ」

「そうでござったか、我等も大国主様の十四代様からの引継ぎでヘレニズム文化の継承に努めて参りました。それから、今、長殿がお話になったニギハヤヒ様とイワレヒコ様が北扶余の王権争いに決着を付けられた様に、大国主様のシメオン族と猿田彦様のガド族の融和がなる様に願ってござる。秦帝国での焚書坑儒事件以来八百年の長きに亘る抗争でござる」

「さすれば、我等も心置きなく仲様できまするな」

「ところで長殿、何かお困りのことはありませぬか」

「このところ、農具の入手が難しくなってきました。ニギハヤヒ一族は製鉄部族でござるが、砂鉄や鉄鉱石枯渇して参ったようじゃ」

「筑紫は何処に参っても鉄の農具が手に入らぬと嘆いておられた。我等、俀国は総力を挙げて鉄の農具の供給に努めまする故、仲ようして下され。兵站にも協力して下され」