「日出処の天子」23

 筑紫倭国の殆どを平定し、肥後多婆羅国の制圧は葛城隊や身狭隊と弾が率いた河野水軍に任せ、春日の本営に帰還した足庭は新体制を構築する人事配置を発令した。

 奪還した竹斯国の王には足庭の長男である太子を任命。東表国を豊の国と改め足庭の弟の次郎を王に任命、出雲国の王には足庭の次男を任命。播磨国の王には次郎の長男を任命。大和の秦王国の王には三郎の長男を任命。新都の周芳国は足庭の直轄地とし、天子となった足庭が全体を統率することとした。

 足庭は平群の弾と久し振りに酒を酌み交わした。

「弾殿、此度は数々の尽力、厚く御礼申し上げる」

「何を改まって、礼を言わねばならんのは我のほうじゃ。存分に活躍の場を与えてくれて、息子達に自慢ができる」

「弾、言い難いのじゃが、今少し尽力して頂けないか」

「水臭いの、何なりと」

「高句麗に渡って下さらんか」

「それはまた大儀な、毒食はば皿までじゃ共に祖先が過ごした所縁の地、承知した」

「交易と外交に本腰を入れようと思うてな、琉球には三郎と東日流隊に行って貰うつもりじゃ」

「それでは、我には坂上隊を付けて下さらんか」

「承知した、坂上隊に指示を出しまする。早急に渡航船を作りましょう。半島の東側を北上するとなれば季節風が納まる来春に出立されるのが宜しかろうと存ずる」

「我も急ぎ渡航船の準備に掛かろう」

「それと、新羅の沿岸を通過されるので、念のため新羅の王族達と同族の蘇我と中臣の然るべき者を同乗させましょう。それに、高句麗を出て既に数百年が経ちました故、土木技術や天文学が進歩しているやも知れません、石工の若者と天文学者を一緒に連れて行って下され」

 足庭は翌日、三郎と東日流隊々長安倍博麻呂を招き、宴を催した。足庭は博麻呂に、

「安倍殿、此度は遠路、ご参軍を賜り厚く御礼申し上げます」

「何の、わが祖、琉球狗奴国王長髄彦様と初代大国主様の頃からの深い誼でござる」

「本日は細やかな宴でござるが、まあ、一献挙げて下され。三郎殿にも苦労掛けましたな。すっかり海の男に馴染んでおる。まあ、一献」

「安倍殿や弾殿の良い手本がございました」

 足庭が、

「処で、安倍殿、今も琉球と行き来は御座るのかな」

「琉球に残った狗奴国の多くの人々は日向の安羅国や薩摩、大隅を奪って南九州に進出しましたので疎遠になっております」

「安倍殿、お願いがござる。三郎と一緒に琉球に行って下さらんか、交易を盛んにして、一層の国力充実を図る所存でござる」

「事のついでと言っては何でござるが、此処まで来て琉球に寄らずに帰るのも剛腹でござる。喜んで三郎殿の道案内をいたしましょう」

「それは、ありがたい。三郎ご苦労じゃが安倍殿と琉球に行って下され」

 秋晴れの好日に、弾は末盧国菜畑の棚田に兵を引き連れ、鋤、鍬を担ぎ、鎌を手に段丘を上った。

「菜畑の長殿、稲刈りを手伝いに参った。鋤、鍬も持って来ましたぞ」

「これは、これは、平群の長殿、似合いまするな」

 筑紫中の稲穂が頭を垂れ、各地で稲刈りが始まり、駐留した俀国の各隊は取入れを手伝い、およそ五分の一緩やかな割合で新米を徴収した。末盧国は菜畑の里を除き末盧国の治世を尊重した。