「日出処の天子」25

 筑紫の野が菜の花で埋まる頃、弾は高句麗訪問船団を編成し博多湾を出港。壱岐、対馬を経由して半島南東端を親潮の支流に乗って北上していた。新羅の都、金城の沖合に掛かる頃、三つ巴の紋章を掲げた船団が行く手を遮った。弾は水夫長に三つ巴の紋章とトウビョウの紋章とカゴメ紋の紋章を掲げさせ接近を命じた。相手船団から、

「我等、新羅の巡視船でござる。どちらの国の船団か、何処へ行かれるのか」

 弾は中臣の士官に音声を上げさせた。

「我等、秦王国改め俀国の交易船団でござる。貴国が宜しければ交易をいたしたい。我は東表国を建国したエビス王家の裔の中臣の士官でござる。船団長は大和平群の長の弾でございます。昨秋、琉球に行った折、尚家の裔を預かって参った故、三つ巴の紋章も掲げましてござる」

「それでは、金城の王宮と連絡を取ります故、最寄りの浦項の港に入港されたい」

 浦項の港に入港した弾の訪問団は翌々日、都の金城に入港し新羅第二十六代の眞平王に拝謁が許された。

「弾殿、俀国は筑紫倭国を駆逐したそうじゃな」

「昨夏、筑紫に侵攻いたしまして、首尾よく制圧ができました」

「それは上々、祝着であった。我が国も殖産振興、富国強兵に努め領土拡大に邁進しておる。目前の敵、百済の兄弟国である筑紫倭国の衰退は喜ばしい。俀国天子に祝詞を申し上げる」

「戻り次第、お伝えをいたします」

「中臣の士官が音声を上げたそうじゃが」

「貴国の貴族階層に同胞が居られると仄聞いたしました」

「隣国の金官加羅が滅んだ折、その王侯貴族を我が国に収容している。その中には中臣の血を受け継いで者がいると承知している。その若手官僚の一人に合わせてあげよう」

「ありがとうございます」

「三つ巴の紋章を掲げたそうじゃが」

「昨秋、琉球に交易に参りました者が、尚家の若者の見聞を広めるために預かり、此度は連れ参りましたので、尚家の紋章の三つ巴を掲げました」

「三つ巴の紋章は新羅の紋章だ、濫りに使われるな、尚家もインドのコーサラ国に縁があるのであろう、此度は許そう」

「お言葉、痛み入ります」

「交易に来たそうじゃな」

「此度は、その許しを得る挨拶と思うて参りました」

「して何を持参いたした」

「昨秋収穫いたしました筑紫の新米と飛鳥で織りました絹織物と琉球交易で得ました飾り細工に使います夜光貝と木工に使いますアカギの角材等を持参いたしました」

「左様か近々、中国を統一した隋との交易を始める予定じゃ、献上品に加えよう。次に来た時は鉄を進ぜよう」