「日出処の天子」29

 弾が報告を続けた、

「隣国、隋との衝突の危険が迫っている時に飛び込んだ我らの願い事は全て聞き入れて頂けました。石工も天文学者も尚の若者も勉学に来たものは全て受け入れると、更に学問僧の派遣と石工と天文学者が帰る時は絵師を送り出して頂けるそうです」

 足庭が、

「仏教僧を派遣して頂いたが、檜隈寺の次は飛鳥に大寺を計画しておったので丁度良かった、建設を早めよう。三郎殿、秦王国王を委ねている、お主の長男の小太郎殿に総監督を任せよう」

「ありがたく、承ります」

「太子、飛鳥大寺の建設が終わったら仏教僧を太子の長男の教育係に就任させるかの」

「父上、親馬鹿、いえ爺馬鹿でございます。未だ生まれて一年でございます」

「いや、子の成長は早いものじゃ」

「ありがとうございます」

 足庭が、

「羅尾、仏教僧を飛鳥に送り届けて下され。それと、弾達が高句麗から持ち帰った馬具一式を檜隈の工人達に見せて、複製品を作らせて下され」

 三郎が、

「我も、飛鳥に戻り小太郎に飛鳥大寺の件を伝えまする」

 足庭が、

「次郎殿、弾達が高句麗から持ち帰った仔馬じゃが、阿蘇で育成するのも良いが警備が不安じゃで豊の国で育成してくれぬか」

「かしこまりました」

「馬が増えたら太子の処に分けて下され」

「重ねて、ありがとうございます」

 足庭が、

「そうじゃ、新羅にも行ったそうじゃな」

「足庭様の深謀遠慮には心底感嘆いたしました。新羅の都の金城の沖合に差し掛かりましたら案の定、新羅の巡視船に停船を命じられましたが、中臣の士官に音声を上げさせ事なきを得、運よく新羅王に面会が適いました」

「どんな話を」

「金官加羅が滅亡した折、受け入れた王侯貴族の中に中臣の血を受け継いだ者がいる。会わせてあげようと、只、自らの出自は暈されました。交易の話では我らが持ち込んだものを隋への献上品に加えようと、次に来た時は鉄を進ぜようと仰せであった」

「次に交易に行けば鉄を入手できるか、新羅に入れたのは上首尾じゃったの」

 弾が、

「高句麗と新羅では隋への対応姿勢がまるで正反対でした。交易は相手国の状況を把握しないといけませんな」

 足庭が、

「三郎殿、飛鳥からは早めに戻って下さらんか、外交と交易の責任者に就いて頂きたい」

「かしこまりました」

「弾殿、高句麗駐在武官の人選などは明日にでも相談したいのじゃが、一度、奈良島や平群に戻られて英気を養って下され」

「ご配慮、痛み入ります」

 宴の後、太子と二人になり、

「お主も飛鳥へ戻り妃や子に会って来れば、後宮を春日に移すかどうかも熟慮なされ」

「そうさせて戴きます。道々、各地の長に兵站協力の御礼をしながら参りますが宜しいですか」

「おう、そうじゃった、良く気が付かれたな、母者の里にも寄って下され」

「畏まりました」

 ミチタリは筑紫侵攻作戦後、初めて瀬戸内を東航し、尾道の次の児島で船泊し、長を表敬訪問した。

「先頃は兵站に協力頂き誠にありがとうございます」

「筑紫奪還祝着でござった。祝いの宴を開きましょう。料理と舞姫を此れへ」

「まるで竜宮城の様ですね」

「近隣の長から次々と娘たちが送られて来てこの有様だ」

「父の嬪の詩音様が、玉手箱は開けないで下さいねと申しておりました」

「白髪頭には、未だなりたくないな」

「お気を付けください。父は詩音様に、それでは今夜、桃太郎になって、そちの寝所に参ろうと」

「おうそうじゃ、今宵は妃のもとに参ろう。今宵はゆるりと休まれよ」

 ミチタリは東航を続け、宇野の次の牛窓の長の館に上り、

「先頃は、筑紫侵攻作戦の兵站に協力を賜り御礼を申し上げます」

「見事な侵攻でござったな、お祝いを申し上げます」

「ありがとうございます。港の夕日が絶品でございました」

「牛窓は魚も殊の外、絶品でござる。遠慮なく召し上がって下され」

「昔、アラビア人が居住していたと聞きおよびましたが」

「牛窓の地名はアラビア語でアラビア人の住む町から来ているそうです」

「我らの祖もオリエントからの漂着者でございます」

「隣国の児島の長の出自はよく判らぬが近隣に手を出しすぎておられる。目に余る」

「足庭様に申し伝えます」