「日出処の天子」30

 東航を続けるミチタリは赤穂の次の高砂で文身国の王宮に上がり、祖父母に見え、

「兵站に一方ならぬご尽力を賜りありがとうございます」

「我ら大国主一族の悲願を達成して下さり喜びに堪えませぬ。お礼を申し上げるのは我らのほうじゃ。ミチタリ殿に子が生まれたそうじゃな、おめでとうござる。ひ孫じゃ、何時か会って見たいな」

「ご一緒に飛鳥に参られませぬか」

「婆、一緒に連れて行って貰おう」

「冥途の土産に飛鳥にいきましょうかの」

「そうしてください。叔父御はお留守でございますか」

「倅は西の方に巡察中じゃが明日には戻ろう」

「それでは帰りをお待ちします」

「そうしなされ、婆の手料理をたんと召し上がられよ」

「瀬戸内は魚が美味しゅうございます」

「この辺りは桃や枇杷も殊の外、美味じゃ。手土産には塩を持ち帰って貰いましょう」

 翌日、帰館した文身国王に拝謁したミチタリは、

「先頃は筑紫侵攻作戦の兵站に協力を賜りありがとうございます」

「筑紫奪還祝着に存じます。父の代までに適えられなかった一族の悲願を達成して頂き望外の喜びでござる。感謝申し上げます。足庭様はご健勝ですかな」

「次々と訪問客があり忙しくしております。春日の王宮を立つ前も平群の弾殿達が高句麗から戻られ走り回っております」

「高句麗訪問団の帰国は、数日前に羅尾殿が仏教僧を連れて通過の折、承った。嬉しい話ばかりじゃ。そう言えばミチタリ殿に子が生まれたそうじゃな、おめでとう。父母を連れて飛鳥に戻ってくれるとか、何か祝いを考えねばな。父母は塩じゃと申しておった故、我は何か甘いものを送ろう」

「お心遣いありがとうございます」

「耳にしていると存ずるが、児島の長の横暴が目に余っておる。制裁をせねばならん」

「牛窓の長から聞かされました。その前に兵站協力の御礼に表敬訪問したおり、お会いしました。近隣から娘達が送られて来て云々申しておったが、強要して御座ったか、足庭様の了解を得て懲らしめましょう。ご協力ください」

「協力も何も自分達でお灸を据えようと思っておりました故、喜んで協力いたしますぞ」

「直ちに、早舟を柳井水道に送ります。春日から戻られておられましょう。ミチタリが児島で鬼退治をいたしますと」

 文身国の精鋭部隊とミチタリの親衛隊が児島の館を急襲、長を捕縛、娘達を解放した。