大和飛鳥に夏が訪れ、稲田が緑一色に埋め尽くされた頃、羅尾は学問僧の恵慈を甘樫の丘に案内し、飛鳥大寺建設予定地を眼下にしながら、
「恵慈様、右手一帯が飛鳥の官衙です。その南にある丘陵が島の庄で大きな方墳が先代、広庭様の陵です。左手一帯が十四代様の纏向の王宮です。今は息女様二人でお住まいです。向こうに見える山は三輪山で手前の流れが飛鳥川でございます」
「極楽浄土に相応しい場所じゃ」
「伽藍配置の構想はお決まりに成られましたか」
「飛鳥と纏向が連なる様に、南大門、中門、塔、中金堂、講堂を一直線に並べ、塔の東西に大和の豪族全てが一帯となれる様、金堂を配置しましょう」
「早速に足庭様に連絡いたします」
「羅尾殿、もう一つ、この甘樫の丘と大寺建設予定地の間にかなり広い槻野が残ります。広場にすれば飛鳥京の大きな儀式に活用できましょう」
「併せて連絡いたします」
羅尾と恵慈が飛鳥の官衙に戻り秦王国の王の館に報告に訪れると、丁度、柳井水道に向かう父親の三郎にも出会えた。報告を終え羅尾が、
「三郎様、飛鳥大寺の伽藍配置と西門の件、足庭様にお伝え下さい」
「相分かった。急ぎ足庭様の処に戻ろう」
恵慈が、
「三郎様、今一つ、足庭様にお伝えください。高句麗に寺大工、路盤博士、瓦博士派遣の依頼を願えますか」
「天文学者と石工が戻る時、絵師を派遣すると嬰陽王が申されていたそうじゃが、その前に寺大工などの派遣願う様、足庭様にお伝えいたす。王、それで良いの」
「父上、宜しくお願いします」