「日出処の天子」38

 夏を迎えた博多那の津では隋に向かう使節団の船舶が出港準備を終えて住吉大明神に航海の安全を祈願した乗組員の乗船が始まり、見送りに出た足庭が使節の身狭寛徳に声掛けをした。

「安全を優先して下され。表敬訪問ゆえ気楽に務められよ」

「畏まりました」

 翌年、洛陽に無事到着した使節は高祖文帝に拝謁。所司を通じて俀国の風俗を問われ、

「俀王は、天を以って兄と為す。日を以って弟と為す。天未だ明けざる時、出でて政を聴く。日出れば、すなわち理務を停めて弟に委ぬ」

 謎かけのように答えた。これを聴いた文帝解さず、

「此れ大いに義理なし。是に於いて訓えて之を改めしむ」

 と訓令した。

 使節の謎かけは「天は常にあるから一番目の「兄」であり、夜明け前に輝く金星(明けの明星)は二番目であり、三番目の弟である太陽が昇ると金星は見えなくなってしまう。俀王は「明けの明星」であり、隋の皇帝は「太陽」である」の意であったが、理解を得られぬまま使節団は文帝の訓令を持ち帰り、足庭に報告、

「文帝様にはご理解を戴けず、意味不明の訓令を頂戴いたしました」

「長旅、ご苦労じゃった。次は分かり易い国書を携えて渡って貰おうかの」

「そう願います」