「日出処の天子」40

 飛鳥大寺が完成、足庭は久し振りに飛鳥に戻り落慶法要に臨んだ。伽藍配置は高句麗から渡来した高僧恵慈の指導の元、一塔三金堂を回廊で囲い、その北に講堂を配している。西門は間口を大きく取り槻広場に開かれていた。足庭は恵慈を招き寄せ、

「素晴らしい仏教寺院になりましたな。貴僧の指導の賜じゃ、御礼を申し上げる」

「とんでもありません足庭様がお任せ下さったお蔭でございます」

「それにしても美しく厳かに仕上がりましたな」

「愚僧の想像を超える出来でございます。飛鳥の地、いえ俀国の地に相応しい寺院になりました」

 近くに来た秦王国王の小太郎にも足庭は声を掛けた。

「小太郎殿、よう皆を取り纏めて下された。嬉しく思います」

「私は只の聞き役で御座います。寺大工、瓦博士、石工、金工、絵師、皆が素晴らしい技を発揮してくれました」

「深い軒と裳裾の重なり、回廊列柱の優しい膨らみ、惚れ惚れしますな」

「俀国の地の多雨、湿気に耐える造りに、飛鳥の地の桧の樹の性質を調べ尽くした棟梁達皆の努力の賜でございます」

 太子の筑紫王が長子を伴って足庭の近くに寄り、

「父上、我の太子でございます」

「おお、爺馬鹿と言われた足庭じゃ。聡明な顔をしておるの、この飛鳥大寺で勉学に励んで下され。恵慈殿から仏陀の教えや宇宙の摂理を貪欲に学んで下され」

「じじ様、素晴らしい勉学の場を与えて下さり、ありがとうございます。弛まず勉めます。どうぞお見守り下さい」

「良い挨拶ができましたな。爺も楽しみにしていますぞ」

 目敏く職人集団を見付けた足庭は小太郎を伴い、自ら足を運び、職人達に声を掛けた。

「棟梁殿、ご苦労を掛けました。見事な出来栄えですな。木々が躍動しておる」

「飛鳥の桧のお陰です。素晴らしい環境で、素晴らしい資材を遣わせて頂け、ありがとうございます」

 足庭は小太郎に小声で、

「瓦博士は」

「あれにおります」

「瓦博士どの、ご苦労様でした。瓦が銀色に輝き、大きな翼の鳥が今にも羽ばたくようじゃな」

「恐れ多き、お言葉、恐懼に存じます。捏ねた土をしっかり乾燥させ、低温でじっくりと焼き、雨弾きの良い瓦が作れました。飛鳥の良質な土のお陰でございます。壮大な寺院造りに参加させて頂けありがとうございます」

 羅尾が足庭に近寄り、

「大王様、法要を始めます。桟敷席にお着きください」

「相分かった、皆々桟敷に参ろう」

 槻広場西門前に設けられた桟敷席に足庭達が三々五々着座を終え、落慶法要が営まれた。