「日出処の天子」44

 裴清は秋を待たず俀国使節団と共に俀国に向かった。対馬、壱岐を辿り、末羅半島を南に見ながら博多那の津に入り鴻臚館で三郎の出迎えを受けた。

「裴清殿、遠路の旅お疲れ様です。遥か日出る国にお越し賜りありがとうございます。鴻臚卿務めております、天子足庭の弟、三郎と申します。ご案内をさせて頂きます」

「俀国の都は未だ遠いのか」

「ここは俀国の玄関口、竹斯国でございます。これより以東は何れも俀国に附庸しており、都までは海路で三日程掛かります。都は瀬戸内海の要衝柳井水道にございます。歓迎の準備が整いますまで、こちらで暫しお寛ぎ下さい」

「都は夜麻苔の飛鳥ではなかったのか」

「先年、この地、竹斯国を三百年振りに奪還するため戦略上、瀬戸内水運の要衝、柳井水道に遷都いたしました。飛鳥には何れご案内をいたします」

「南に火の山あるそうじゃな」

「阿蘇山という大きな火山がございます。バカンという港を持ちます多婆羅国にあります。多婆羅国も俀に属しており、今は肥後の国と呼んでおります」

「末盧国は近いのか」

「西に一山超えれば眼下に見えます。末盧国も俀に附庸しております。明日は竹斯国の王を務めております、天子足庭の太子ミチタリが春日の王宮で歓迎の宴を催しますので、お楽しみください」

「倭国の王都が有った処かな」

「よくご存じですね。次の日には東隣にあります豊の国の王を務めております、天子足庭の弟、我の兄になります次郎が馬にてご案内をいたします」

「太子ミチタリには子はおるのか」

「長男と次男が既に育っております」

「それは重畳」

 緑青色の島々が春霞に煙る瀬戸内を辷り周防灘を麻里布の浦から柳井水道に入り奈良島の王宮に昇った裴清は天子足庭に見えた。

「隋大使、従八品、文林郎の裴清と申します」

「よう参られた。俀国の天子足庭です。海西に大隋、礼儀の国ありと聞こえました故、使節を派遣し朝貢いたしました。我は夷人にして海隅の辺境に住まいし礼儀を弁えませぬ故、境内に留まり、すぐにはお会いせず、殊更に道を清め、館を飾り大使をお待ちしました。願わくば大国惟心の化をお聞かせください」

「皇帝の徳は併せて二義、恩恵は四海に流れ、王を慕うを以って化し、故に使者を来たらしめ、ここに論を宣します」

 裴清は宿所に一旦下がり、人を遣わし、足庭に奏した。

「朝命は既に伝達をいたしましたので道を戒めてください」

 足庭は直ちに宴を設け裴清を招き饗応した。