再び昇殿した裴清と相見えた足庭は、
「高句麗と琉球は友好国として交流しております。お手柔らかにお扱い賜り仲良くして下され」
「琉球は使者を派遣しても纏ろわず、高句麗は我が辺境を侵しており赦されない」
「琉球は国体が定まらず朝貢するだけの力がありませぬ、良しなに」
「それは適わぬ。それより夜麻苔の飛鳥を早う見せて下され」
「此処、柳井水道は海産物が殊のほか美味です。十分にお召し上がり下さい。その間に船の用意も整いましょう」
「渡り蟹が美味しいそうじゃな」
「羅尾、料理と舞姫を此れえ」
三日後、瀬戸内を東へ向かう裴清の船旅は船泊を重ねながら若草色に染まった棚田や平田や溜池を左手に見ながら軽快に進んだ。
前方に巨大な島影見え、裴清が、
「あれは何処じゃ」
「淡路島と呼ばれております。左手の明石海峡を抜けると茅渟の海でございます。そこから飛鳥はすぐです」
茅渟の海から内海の河内湾に入り日下の津で船泊した裴清は傀儡館で一夜を過ごし大和川を遡上した。
裴清は羅尾に、
「帰路も日下の津を通りますか」
「お望みであれば」
亀の瀬で小舟に乗り換え飛鳥に到着した裴清は鴻臚卿三郎の長男で秦王国の王を務める小太郎に迎えられた。
「長旅お疲れ様です。鴻臚卿三郎長男の小太郎です」
「三郎殿のご子息か、よく似ておられる。飛鳥を見せて頂くよろしくお願いします」
「ご案内は引き続き羅尾が務めますが、先ずは暫しお寛ぎ下さい」
官衙で休息した後、直ちに羅尾の案内で飛鳥大寺を訪れ、西門を抜け、槻の森から甘樫の丘を登り、
「裴清様、右手奥に見えます大きな方墳が先代広庭様の陵墓です。右手の山が三輪山です。その手前の建物群が先々代の十四代大国主様迄が住まわれていた纏向の旧都で、その周辺の多くの墳墓が二代様以降、十四代様迄の代々の大王陵です」
「すると足庭は十六代かな。隋も十代、二十代と続けば良いのじゃが」
裴清と羅尾は駆けるように飛鳥を巡り、飛ぶように瀬戸内を辷り、柳井水道の王宮に戻った。足庭は送別の宴を設け裴清を労い、帰還する裴清に使者を隋伴させ方物を隋に貢献した。
裴清は煬帝に召され報告した。
「俀国、侮りがたし」