道庭は柳井水道に取って返し、三郎叔父を労い、足庭の亡骸と後宮の女達と金銀財宝の搬送を指揮した。
延べ三百艘に及ぶ搬送作戦を終えて飛鳥に戻った道庭の元に石工頭が殯と陵墓の候補地の報告に訪れた。
「足庭様の殯の地は斑鳩の近くの烏山が良いと存じます。太子様が爺の寺を建立すると仰ってます」
「そうか、そうしよう」
「陵墓の地は甘樫の丘の南に良い地が見付かりました」
「そうか、案内をしてくれ」
甘樫丘の南、飛鳥の官衙の西に低い丘陵地が連なる一画に少し開けた場所があり、民家が点在していた。
「道庭様、こちらでございます。集落の住人には移り住んで頂きます」
「良い処じゃ。移り住みは丁寧に手厚く進めて下さい。当面は河内の弾殿の陵墓の完成に全力を注いで下さい」
道庭は飛鳥の王宮を守ってくれた、三郎叔父の長子、小太郎を柳井水道に移し周芳国王を命じ、九州の守りの要とした。また、博多の鴻臚館に代わる施設を難波津に設け秦王国の新しい鴻臚館とし、三郎叔父を常駐させ責任者とした。琉球より三郎の三男が戻り父に付き外交の勉強を始めた。
道庭は久し振りに太子と寛いでいた。
「父上、爺様の供養で斑鳩に寺を建立したいのですが」
「それは嬉しいの、恵慈殿にも相談して、飛鳥大寺を手掛けた棟梁達も元気で居ろう、声を掛けてよいぞ」
「はい、ありがとうございます。小さな寺を懸命に作ります」
「おお、爺様の喜ぶ顔が見えるようじゃ。そじゃ近々に立太子の儀を執り行おう。上宮聖徳と名乗って貰おう」
「ありがとうございます」
「そうじゃ、乗馬の稽古を始めておったの、弾殿が高句麗から持ち帰られた二郎叔父と揃いの私の馬具を引き継いで貰おう。私は檜隈の工人に作らせていた馬具が完成したのでそれを使おう」
「重ねて、ありがとうございます」
翌年、高句麗に派遣していた駐在武官達が出雲経由で飛鳥に戻り道庭に報告した。
「大王様、隋の煬帝が百万の大軍を擁して高句麗に侵攻いたしましたが、乙巳文徳将軍に完膚なきまでに粉砕されました」
「ほう、詳しく聞かして下され」
「文徳将軍は隋軍の兵站に瑕疵ありと判じ、焦土作戦を取りながら態と退却し続け、隋軍を高句麗深く引き入れ、補給線を延びきらせ、薩水で補給不足に陥り疲労困憊した隋軍を包囲して殆ど全滅させました」
「おお、足庭様と弾殿の話によく出てきた乙巳将軍ですね」
「弾殿が戦の要諦を聞かれ、兵站が大事じゃと答えられた話です」
「乙巳将軍はその折の通りの作戦を実践された。痛快じゃな。これで当面、隋の我が国への侵攻は無くなりましたな。皆様は檜隈で鋭気を養って下され。ご苦労様でした」
道庭は三郎叔父を呼び寄せ、外交政策を話し合った。
「筑紫の倭国との和平交渉を考えねばな」
「玄界灘に出るのに不自由でございます」
「宗像に仲介を頼むかな、畿内に入っている物部にも手伝っていただくかな」
「羅尾殿に下工作を頼みましょう。九州傀儡の連絡網は残っていると思います」
「そうだな、表の使者は中臣に頼もう。ウガヤ王家とニギハヤヒ王家の仲介をしたエビス王家の末裔じゃからな、その次は百済とも国交を結ぼう。中原には新しい国家ができよう、その時に邪魔立てされても詰まらんからな」
「新羅とは交易を継続してまいりましょう」
「鉄は必需品だからな。最近傭兵軍団が印度から入り軍事力が頓に上がっている様じゃ、気を付けて見て行こう」
「高句麗とは従前どおり、交易と駐在武官の派遣をいたしますか」
「やはり、早うに中原の動向を知る上で駐在武官の派遣は有効じゃ、継続しよう」