そして数年後、弾が高句麗から帰国し、足庭は総出で博多港の住吉大明神前に出迎えた。
「大役、ご苦労様。無事の帰着、祝着でござる」
弾が声を上げ、
「華やかなお出迎え、驚嘆いたしました。多数お揃いでの歓迎、痛み入ります。ありがとうござる。思い掛けない土産が多数ござる」
足庭が目敏く、
「仔馬を持ち帰られたか」
「華麗な馬具も一緒に持ち帰りました」
「仏教僧を連れ帰られたか」
「嬰陽王様から学問僧を委ねられました。恵慈様と申されます」
「それは喜ばしい。積もる話もあろうが、皆で春日の王宮に参ろう」
王宮での懇談の中、弾が報告を続けた。
「隣国、随との衝突の危機が迫っている時に、飛び込んだ我らの願い事は全て聞き入れて頂けました。石工も天文学者も勉学に来た者は全て受け入れると、更に石工と天文学者が帰るときは絵師を送り出して頂けるそうです」
足庭が、
「仏教僧を派遣して頂いたが、檜隈寺の次は飛鳥に大寺を計画しておったので丁度良かった。建設を早めよう。三郎殿、秦王国王を委ねているお主の長男の小太郎殿に総監督を任せよう」
「ありがたく、承ります」
「太子、飛鳥大寺の建設が終わったら、恵慈様を太子の長男の教育係に就任させるかの」
「父上、親馬鹿、いえ爺馬鹿でございます」
「この成長は早いものじゃ」
「ありがとうございます」
足庭が、
「羅尾、恵慈様を飛鳥に送り届けて下され。それと、弾殿が高句麗から持ち帰った馬具一式を檜隈の工人に見せて複製品を作らせて下され」
三郎が、
「我も飛鳥に戻り小太郎に飛鳥大寺の件を伝えまする」
飛鳥に夏が訪れ、稲田が緑一色に埋め尽くされた頃、羅尾は学問僧の恵慈を甘樫丘に案内し飛鳥大寺建設地を眼下にしながら、
「恵慈様、右手一体が飛鳥の官衙です。南にある丘陵が島の庄で、大きな方墳が先代広庭様の御陵です。左手一帯が十四代様の纏向の王宮です。今は息女様二人がお住まいです。向こうに見える山が三輪山で手前の流れが飛鳥川でございます」
「極楽浄土に相応しい場所じゃ」
「伽藍配置の構想はお決まりに成られましたか」
「飛鳥と纏向が連なるように、南大門、中門、塔、中金堂、講堂を一直線に並べ、塔の東西に大和の豪族全てが一体となれる様、金堂を配置しましょう」
「早速に足庭様に連絡を致します」
「羅尾殿、もう一つ、この甘樫丘と大寺建設地の間に、かなり広い槻野が残ります。広場にすれば飛鳥京の大きな儀式に活用できましょう。西門を大きく作るのが良いと思います」
「併せて連絡いたします」
羅尾と恵慈が飛鳥の官衙に戻り秦王国の王の館に報告に訪れると。丁度、柳井水道に向かう父親の三郎にも会えた。報告を終え羅尾が、
「三郎様、飛鳥大寺の伽藍配置と西門の件、足庭様にお伝え下さい」
「相分かった。急ぎ足庭様の処に向かおう」
恵慈が、
「三郎様、今一つ、足庭様にお伝え下さい。高句麗に寺大工、路盤博士博、瓦博士派遣の依頼を願えますか」
「天文学者と石工戻るとき、絵師を派遣すると嬰陽王が申されていたそうじゃが、その前に寺大工などの派遣を願うよう、足庭様にお伝えいたす。王、それで良いの」
「父上、よろしくお願いします」
翌年、高句麗から寺大工、路盤博士、瓦博士などの派遣を受けた飛鳥大寺の建設は順調に進み、縄張りから堀片を終え、地固めに入っていた。秦王国の王の小太郎は木工房、瓦工房、石工房、金物工房などを建設地の南側に作らせ、木材の切り出し、瓦や金物の試作を始めさせていた。
筑紫王が数えで五歳になった長子を連れて飛鳥大寺の建設現場を訪れ、
「太子、ここが飛鳥大寺の建設場所じゃ、何れ恵慈様より仏教の教えを受けることになる」
「分かりました、楽しみにしています」
「槻の森を抜けて甘樫丘に登って見るか」
「飛鳥と纏向が一望に見えるそうですね」
「よく知っておるな」
「乳母に聞きました。来年は弟も連れてきましょう」
「そうだな」