礼尾が独り言のように。 「斑鳩の辺りは池がたくさんあるな、その向こうは三輪山か、兵長、この辺りは誰の領地かな」 「あそこで藁を漉き込んでいる立派なお百姓に少し聞いて見ます」 兵長は杖刀を兵に預け、百姓に声を掛けた。 「我は飛鳥の東漢の者だが、この辺りはどなたの領地かな」 「ここは、大国主様の領地じゃ」 「大王様の領地でしたか、ありがとうございます」 「あちらに居られるのは東漢の跡取りかな、姿が良いの」 「挨拶が遅れました。東漢の太子、礼尾でございます」 「今来(いまき)の売り出し中の豪族、東漢の太子なれば、我らの來し方を少し教えて進ぜよう」 「それは、ありがたい。お教えくだされ」 「我らはスメルの裔でござってな、遥かな昔、ソロモンの採鉱船団が豊後水道を北上中、国東半島の重藤海岸で大量の砂鉄を発見し、ヒッタイト人の蘇我がタタラの炉で鉄を作り、エブス人の中臣が、殷に鉄を売り始めたと伝え聞き、メコン上流のヴァンチェンから川を下り、オケオの港からフェニキアの船で苗族達と、有明海から吉野ヶ里や筑紫に入り水耕栽培で稲作を始めたそうじゃ。暫くして、皆で守り神の蛇神を祀るトウビョウ国を建て宇佐八幡を都にして千年王朝と謳われたそうじゃ。そんな折、シメオンの大国主様がトウビョウ国から吉野ヶ里の地を譲られ渡来し、委奴国を作られた」 「初代の大国主様ですね」 「暫くして、満州から東扶余王ケイスのイワレヒコ達が遼東の公孫氏の大物主命と連携して吉野ヶ里を挟み撃ちしよった、委奴国の人々は三年間よく戦ったのじゃが、大国主様が流れ矢に当たり討ち死にされてしまわれた。止むを得ず瀬戸内と日本海の二手に分かれて東遷し、我の先祖は大国様のご長男に付いて参いり、二十年程掛けて瀬戸内を進んで茅渟の海から河内湖に入り猿田彦に一度は撃退されましたが、熊野廻りで猿田彦の東鯷国を打ち破り、この地に二代目の大国主様が秦王国を築かれたそうじゃ」 「我らの祖も筑紫を通り、瀬戸内を進みこの地に入りました。何卒、宜しくお願いします」 「そうじゃのう、こんど、用水路を盛り変える時は、頼もうかの」 「何なりと手伝いまする。陵墓も作りまする」 「まだまだ、死なぬつもりじゃ」 「これは、失礼いたしました。貴重なお話をありがとうございました」 礼尾達は集合地の佐保川に急ぎ向かった。既に、次郎と石工頭は到着して手を振っている。 「兄者、遅いぞ」 「待たして悪かった。物見の聞き込みに手間取った。そっちはどうじゃった」 「春日でも和邇でも、物見に誰何されましたが、東漢を名乗り通過を請うたら、気持ち良く通してくれました」 「それは良かった。どこでも、今来の我らのことを認めてくれてるようじゃ。頭、石切場を見て参った、山を駆け下りたら戦闘態勢を布(し)かれた。よう訓練されていて感心しました。石切場の頭が二上山で良い石が取れそうだと言うておった」 「手が空き次第、二上山に行って見ます。ありがとうございます」 礼尾たちは石材を運搬する船に乗り佐保川を下り、飛鳥を目指した。 「次郎、纏向の王宮には行ったことは」 「父上の使いで参っております」 「末の王女様は見たか」 「抜けるような、色白のお美しい方ですね。兄者は未だ見ておられないのですか」