大和盆地の水田が緑一色になった頃、梔子や紫陽花が咲き競い、桃の実が鈴生りの、纏向王宮に呼ばれた、東漢の長は大王の寝所に入り叩頭し、
「東漢の長、比呂仁和、まかり越しました。大国様の弥栄を守り導き給えと慎み敬い申し上げます」
ディオドトスの血を引く大王は鷲鼻、碧眼の高貴な顔に笑みを湛え、
「比呂仁和殿、よう参られた。堅苦しい挨拶は抜きに至そう」
「ありがたき、お言葉、痛み入ります」
「大王位はお主に譲ることにした。娘が三人では政は適わぬ。比呂仁和には息子が五人もおって安心じゃ」
「畏れ多いお言葉、恐懼至極に存じます」
「継承にあたって引き継いで貰いたいことが一つある。我が遠祖はアレキサンダー大王様の東征に従軍し、大王様が亡くなられた後、総督の地位に就かれていたディオドトス様がバクトリアに大秦国を建国し、アレクサンダー大王様の遺志を継ぎ殷の地を征服し秦帝国を築かれた。崩御された後、秦帝国は崩壊しシメオンの遺民が筑紫の東表国から、吉野ヶ里の地を譲り受け、委奴国を建国し大国主様が初代王に推挙された。国力が充実したあと、博多の猿田彦の伊勢国を打ち破り、博多に都を遷して程なく東扶余のウガヤ王家の磐余彦に討たれて亡くなられた。二代様が瀬戸内を東遷し苦難の末、この夜麻苔の地に秦王国を築かれた、二代様から連綿と筑紫の地の奪還を伝えられており、我も何時かはと念じてきたが果たせなかった。比呂仁和もこの二代様の遺志を引き継ぎ筑紫の奪還を目指して欲しい」
「承りました。一層の殖産振興に努め富国強兵に邁進いたします。我の代に果たせ無くとも息子の代には筑紫の地の奪還が図れますますよう、相努めます」
「頼んだぞ、それとのう、シメオンやガドが連綿と引き継いで参ったアレキサンダー大王様のギリシャ文化とペルシャ文化を併せた我らのヘレニズム文化を比呂仁和の息子達にも学ばせてくれ」
「ありがたきお言葉、東漢の一族、挙げて懸命に学ばせまする」
「そうじゃ、初代大国主様が扶余の北倭軍と戦った時、真っ先に戦いの矢面に立ってくれたのが東表国と同じ南倭で、琉球の狗奴国の長髄彦王だ、今はその末裔が東日流に荒吐五王国を築いておる故、誼を繋げて仲良うしなされ」
「早速に十三湊に使者を出しまする」
「最後に、一つ頼みがある。殯宮は三輪山麓に設けて下され。それから陵墓は纏向の南に築き、娘達が嫁がずに崩じた時は合葬できるようにして下され」
「比呂仁和、間違いなく御意に添いまする。比呂仁和にも一つお願いがございます。末の姫様を我の子の次郎の正妃に頂きたくお願い申し上げまする」
「そうか、末の姫をのう、言い聞かせる故、少し待たれよ」