「日出処の天子」10

 斑鳩や飛鳥の水田が黄金色に耀き、畦道に曼殊沙華が咲く頃、第十四代の大国主命が六十六歳で崩御し直ちに、殯宮を三輪山麓に設ける準備と共に東漢の手で纏向に厳戒態勢が布かれる中、有力豪族に招集が掛けられた。

 五十日忌に参集した豪族たちは纏向の王宮で豪族会議を開いた。大和にも根拠地を持つ土師氏の長が開示の挨拶に続き、

「第十四代の大国様から生前に大王位は東漢の長、比呂仁和に譲ると内々に告げられ申した。皆々様のご存念を賜りたい」

 秦河勝が最初に声を挙げ、

「本来であれば、先代様のご次男の文身国の王や、三男の扶桑国の王が候補と考えますが、何分にも遠国であり、夫々の国を開いて日が浅く当主が不在となると政に支障が出て国が乱れれる恐れがあると存じまする」

 続いて、三輪の長が、

「最近、大和盆地の百姓達は東漢の何くれない手伝いを喜んでいると聴いておる」

 葛城の長は、

「各地の土木工事や陵墓造りに多数の東漢が働いている。先日は東漢の太子と石工頭が挨拶に来て、二上山の石材切り出しを願うてきた。十四代様の陵墓造りも視野に入れているそうじゃ」

 和爾の長からは、

「纏向や斑鳩は杖刀の兵が整然と警備しており、兵が溢れておる。軍事力は突出しており、平群に進出したダン族と併せれば兵の数は十万を越えよう、単独では太刀打ちできる豪族は居るまい」

 蘇我氏の長は、

「我は東漢と根拠地を接しておりますが、日の出の勢いを感じまするし、統率力も良く取れております。東漢の長が大王位を継承するのが穏当と考えまする」

 土師氏の長が纏めるように、

「概ね皆様の存念は東漢の長の大王位継承に賛同の由と承った。豪族会議は東漢の長の比呂仁和を大王位に推挙することに決しまする」

 飛鳥に戻った比呂仁和は再び一族の主だった者を集めた。

「本日、豪族会議で大王位に推挙された。皆々一層、心を引き締めて、ことに当たろうぞ。十四代様から、唯一の引き継ぎである、筑紫の地の奪還に向けて、殖産振興、富国強兵に邁進する」

「畏まりました」

「石工頭、十四代様の陵墓の絵図面は進んでおるか」

「一両日中は出来上がりまする」

「そうか、出来上がったら姫様達にお見せしよう。太子は残ってくれ」

 残った太子に比呂仁和は、

「筑紫奪還の手順の始めは瀬戸内通行の安全確保じゃが、二代様が東遷の折、瀬戸内各地の猿田彦の集落を潰しておるが、まだまだ残存勢力が残って居ろう。伊勢の猿田彦一族との融和が是非にも必要じゃで、止与姫を嫁がせたい。ついては太子、伊雑宮に使者に立ってくれ。先ずは、大王位継承の挨拶と即位式を執り行う為の大鏡造りの依頼じゃ、事が進めば止与姫の輿入れを打診して来てくれ」

「承知いたしました。伊勢行に座右留を伴いまするが宜しいでしょうか」

「よかろう」

「一つ、お願いがあります。座右留の娘、詩音を嬪に迎えますことお許し下さい」

「そう来たか、良かろう。好きにいたせ」

「ありがとうございます」

「しかし、正妃の文身国の姫を大事にいたせ、早う跡継ぎの顔を見たい」

「わかりました。早速に伊勢入りの準備に掛かります」