「日出処の天子」11

 平成二十三年十二月、上雉大学古代史サークルのメンバーは忘年会を兼ねて部室の上階にあるサンドイッチ店に集まっていた。

 西園寺が学園祭を振り返って、

「大和の秦王国を取り上げたけど、同時代に九州に存在した倭国の状況を説明しないと片手落ちだったかな」

 島津が、

「そうだな、秦帝国が崩壊して漂流したシメオン族が千年王朝の東表国から吉野ヶ里の割譲を受けて、委奴国を建国し大国主命を王に推戴し力を蓄え、ガド族猿田彦の伊勢国を駆逐した後、東扶余ウガヤ王朝の磐余彦が遼東の公孫氏と手を結び北九州に侵攻し、委奴国を打ち破り伊都国を建国した、後日談だな」

 ロングスカートの中の長い足を組み替えた美佳が、

「それも、調べていたわよ。後の記紀で磐余彦神武と呼ばれた、扶余王罽須が北九州侵攻に先立ち、遼東の公孫氏の大物主の宗女卑弥呼の妹のアヒラ姫を娶り、事代主の公孫康が罽須の妹の武熾姫を娶りクロス対婚関係を結び同盟したのよ」

 チェックのプリーツスカートを穿いた香苗がスラリと伸びた足を揃えたまま続けた、

「神武に嫁いだアヒラ姫が亡くなり、姉の卑弥呼が後妻に入り、公孫康の日向の安羅国と神武の築いた伊都国を行きし、神武は一大率として伊都国と伯済国と東扶余などの倭人諸国を監察する多忙な中、AD二百三十四年崩御し、一大率の地位を巡って再び倭の大乱が起こりますが、伊都国、多羅婆国、安羅国及び東表国の諸王が図って倭人連合の邪馬壱国を建国し、神武妃の卑弥呼を大王に推戴したわ」

 ポニーテールの栗色の髪を胸前から跳ね上げた美佳は、

「邪馬壱国の女王に即位した卑弥呼は神武と先妻アヒラ姫との間の王子タギシミミを伯済国から呼び寄せ夫婿とし、都を安羅国の首都西都原に定め君臨したのよ」

 長袖のカーディガンで手の甲を隠したまま手を叩いた麗華が、

「それが、魏志倭人伝の男弟ありの記述なんだ」

 美佳が続けて、

「邪馬壱国と狗奴国との戦いが続く最中、卑弥呼はAD二百四十八年崩御し、イカッサル族の手によって西都原に大きな円墳の冢が作られ丁重に葬られます。直ちに、卑弥呼の宗女壱与が即位し、狗奴国の圧迫を避けるため対馬に渡り倭人諸国の祭祀センター任那を立ち上げます。そして、神武の次男で東扶余王の綏靖に嫁ぎ安寧を産み倭大王に即位したのよ」

 西園寺が左腕のブルガリに目を遣り、

「またまた、長くなりそう。サンドイッチ食べようや。俺、ローストビーフ」

 島津も左腕を伸ばしコムルの時計を見ながら、

「俺、チーズローストチキン」

 美佳が右腕のペキネに触れ、

「坂上君、頼んであるんでしょ」

「ええ、パーティーコースを頼んであります」

 美佳が、

「もう少しだから続けるわよ、安寧の次の懿徳の時、鮮卑族の慕容瘣が東扶余を侵し懿徳を自殺に追い込み、その子崇神が倭国に亡命、苦難の末、エビス王家の開化を娶り倭大王に即位するのよ」

 香苗が続け、

「崇神の後の応神の娘、仁徳が金官加羅の吹希王に嫁ぎ倭王に即位し、そのファミリーは東洋のブルボン王家と評されます。倭王、百済王、加羅王を独占し、倭の五王時代を迎えたわ。だけど、新羅と安羅の策略で金官加羅が滅び卑弥呼を出した安羅王家から倭王を再び出すようになったのよ、それが大友談、金村、歌の三代で日本書紀では継体、安閑、宣化と書かれているわよ」

 美佳が補足して、

「この事態は安羅の失政と言われ、金官加羅の滅亡により勢力バランスが崩れ安羅の倭国は後に半島の権益全てを新興国の新羅に奪われ、半島を撤退したわ」