「日出処の天子」16

 平成二十四年三月、上雉大学古代史サークルのメンバーが学年末試験を終え部室に集合していた。西園寺が呟くように、

「来年の四月は大学院に進学できるかな、今の成績じゃ無理かな、休学して留学するかな」

 島津が憂欝そうに、

「俺も今の単位じゃ推薦は無いな、西園寺が留学するなら俺も行くよ」

 美佳が、

「そんな逃避留学は止めなさいよ、前期頑張って単位を修得しなさいよ。私は単位も成績もクリヤーしているは」

 香苗も、

「私もクリヤーしているわよ」

 西園寺が羨ましそうに、

「院に上がってから留学すればいいか、それなら今、誘われている三笠宮ソシアルダンスクラブにも行けるな、島津も美佳も香苗も行ってみないか」

 美佳が、

「上雉はフラメンコだけど、何時か海外へ出るかも知れないから必要かもね」

 島津は、

「俺、一応、外交官志望なんだ」

 香苗は、

「ダンスシューズ持っているわよ」

 西園寺が、

「それじゃ、決まりだ。それと、島の庄の石舞台古墳、巷間では蘇我馬子の墓って言われてるけど、東漢の初代王の陵墓で決まりだね。偽史シンジケート集団を内包するシメオン族のボスになった不比等が編纂した日本書紀は九割方フィクションで物語だからね。蘇我三代の話も半島史の焼き直しなんだ。大和の話じゃない」

 島津が、

「白村江の戦いに勝利した新羅占領政権が不比等に委ねた日本書紀の基本コンセプトは、樹立した奈良朝廷は大昔から大和にあった。それに、反する、ガド族の東鯷国、シメオン族の秦王国、北九州に存在した神武と卑弥呼の伊都国と邪馬壱国、宇佐八幡を都とした千年王朝の東表国の歴史を抹消することなんだよ」

 美佳が、

「そうよ、奈良政権樹立以前の歴史は全て創作しなければならなくて、新羅史や百済史を下敷きにして手っ取り早くストーリーを編んだのよ」

 香苗が、

「だから、入鹿殺しと新羅の毗曇の乱は瓜二つなの、蹴鞠の出会いから、皇子が忠臣の娘を娶り、入鹿=毗曇が女帝を脅かすと、皇子と忠臣である中大兄皇子と中臣鎌足=金春秋と金庾信は入鹿=毗曇を誅殺し、中大兄皇子=金春秋は自ら即位せず女帝の斉明=真徳を擁立したのよ。全く同じなのよ」

 西園寺が受けて、

「馬子、蝦夷、入鹿の三代は大和に存在しない訳だから、石舞台古墳は馬子の墓ではない。それと三輪山の西に茅原狐塚古墳が近頃注目を集めていて、玄室に棺が三つ並んでいたそうなんだ。築造年代も六世紀末から七世紀初頭だって。秦王国十四代様の御陵ではと思うんだ。石舞台古墳と同じように封土はないそうなんだ。奈良朝廷を樹立した人達が意図的に破壊したのかな」

 島津が、

「それじゃ、来週皆で見に行こうぜ」

 美佳が、

「それと、十四代様が東漢に薦め広庭が始めたヘレニズムの勉強会は後に紀貫之と言う天才文人を生んでいるのよ」

 香苗が、

「そうよ、ギリシャ神話に精通していた貫之は蟻通神社の前を乗馬姿で通ると馬が倒れ『かきくもり あやめもしらぬ おおぞらに ありとほし をばおもうべしやは』と和歌を献じたら馬の病気が治ったと書いているんです。ギリシャ神話に登場する蟻通しの神ダイタロスを下敷きに書いたのよ」

 美佳が、

「そうそう、それを読んで感嘆した清少納言が『蟻通しの明神、貫之が馬のわずらいけるに、この明神のやませ給うとて、歌よみて奉りけるに、やめ給ひけん、いとおかし』と書いているのよ」

 西園寺が、

「平安期の知識人はギリシャ神話を知っていたんだね」

 美佳が、

「貫之の凄さは現在の国歌の元歌を古今和歌集に詠み人知らずにして掲載したことね『我が君は、千代に八千代に、さざれ石のいわおとなりて、苔のむすまで』これは猿田彦二世の歌と承知した上で天皇家に配慮して詠み人知らずに区分けしたのよ。明治維新の後、薩長連合政府の大山巌が取り上げて今に至るのよ」