「日出処の天子」26

 弾の高句麗訪問団は翌々日、浦項の港を出港し、再び北流する親潮の支流に乗って北上した。遠く白頭山を望みながら船泊を重ね、高句麗東海岸の要港である元山の港に入港し、役人に秦王国改め俀国が交易に参ったと届け出た。

 港に留め置かれて五日目、役人から都の平壌へ案内すると伝えられ、積荷を小舟に積替え、文川を遡り、成川を下り、大同江から外城の平壌市街に入った。滞在一日目、役人が交易に至った経緯を聴取した。二日目、役人から明日、第二十六代嬰陽王に会えると知らされた。

 その日、弾達は威儀を正し中城を抜け内城に入り宮殿に扶座した。暫くして嬰陽王が出座し、一行に声を掛けた。

「荒海を越えて遠路よう参られた。俀国は大和の秦王国が大きくなって筑紫にまで進出したそうじゃな、弾殿」

「仰せの通りでございます。昨年、大和の飛鳥から柳井水道の奈良島に遷都し、筑紫に進出しております」

「聞けば、お主たちの先祖は高句麗に滞在しておったそうじゃな」

「そうでございます。美川王様の御世に西晋から貴国に入り、長寿王様の御世に船団を組み筑紫に渡ったと伝えられております」

「俀国の天子は足庭と申すそうじゃが、人と形は」

「足庭様はヤツガレの竹馬の友でございます。沈着冷静で常に前を向いております。東漢レビ族の族長でもあります。我は西漢ダン族の族長でございます」

「レビ族もダン族も軍事力に優れているそうじゃな」

「足庭様は文武兼ね備えておられますが、我は武骨一本槍でございます。同道いたしました東漢の坂上一族も武に秀でております」

「弾殿、我が軍の傭兵外人部隊に入って下さらんか、中国を統一したばかりの隋が領土拡大政策を推進しておる。早晩、長い国境線を接している我が国と衝突するのは火を見るよりも明らか、高句麗にご尽力下さらんか」

「義を見てせざるは勇無きなり。戻り次第、足庭様と相談いたしまして、然るべき方策を考えまする」

「して、交易に参ったそうじゃな」

「交易も然りながら文化交流、いえ、先進文化の受容を足庭様は考えておられます。此度は筑紫で収穫いたしました新米と飛鳥から絹織物と琉球から夜光貝を持参いたしますと共に、天文学者と石工の若手の精鋭を連れ参りました。また、琉球のキキタエ様から尚家の若者を委ねられました」

「そうか、勉学に参ったものは受け入れよう。弾殿が帰途に付かれるときは学問僧を連れ帰って頂こう。天文学者と石工が帰るときは絵師を送りだそう」