九重山系の山間に逼塞した九州倭国額田王の柵に百済から使者がひっそりと訪れ、
「余泉章と申します。よろしくお願いします」
「額田じゃ、よう参られた」
「女王様、中国の中原に隋という統一国家が誕生し高句麗と度々衝突しており、風の噂では俀国が高句麗に駐在武官を送っているそうです」
「それは興味深い」
「百済は隋に朝貢し交流を始めます。これからの隋と高句麗と俀国の国交状況を具に伝えて参ろうと存じます」
「泉章殿、宜しく頼みます。今後これに控えております多治比広手と連絡を取って下され」
吉貴六年春、足庭は三郎と柳井水道の王宮で外交政策を話し合っていた。
「三郎殿、今年は隋に使節を派遣しようと思うがどうであろう」
「隋は高句麗に手を焼いております。周辺国の協力を望んでおりましょう。訪問すれば受け入れると思います」
「高祖文帝の開皇二十年を迎える記念の年じゃ」
「早急に準備に掛かります」
初夏を迎えた飛鳥の王宮では秦王国の王を交えて棟梁と各職頭領の検討会が開かれていた。大工の頭領が、
「この地で一年有余を過ごしましたが、高句麗に比べ気温が高く、雨が多く、湿気が高いと感じました。軒を深くしないと建物の傷みが早くなると考えます」
瓦博士が、
「瓦はしっかり乾燥させ、少し低温でじっくり焼いて、気泡を無くし雨をしっかり防げる出来にしましょう」
石工の頭が、
「建物は石の基壇の上に載せる様にして下され、その周りは砂利敷きにして雨の泥はねを防ぎましょう」
王は、
「父、三郎からヘレニズムを教わった中で、アレキサンダー様が出られたマケドニアの隣国ギリシャの神殿は中膨れの柱列が美しいそうじゃ」
棟梁が、
「我らもヘレニズムを学んでおります。エンタシスの柱と伝わっております。この一年、山林を具に見て回りましたが、素晴らしい桧の樹をたくさん見掛けました。エンタシスの美しい柱列が造れると喜んでおります」
仏師が、
「我も太い桧が使えるのを楽しみにしております。微笑みを湛えた美しい仏像を彫ろうと思います」