麗華が、
「吉備真備書の三国相伝では、帝釈天に仕える牛頭天王は顔が牛の様で頭には角が生え鬼の様でありました。そのため妻もいませんでした。あるとき帝釈天の使いが来て「南海の頬梨采女をもらえ」と言ったので牛頭天王は喜び勇んで南海に赴きました。八万里の行程のうち、三万里に及ばない鬼の国、広遠国で人馬共に疲れてしまい、その国の鬼の王、巨旦大王に一夜の宿を乞いますが断られます。すると、そこにいた婢が「東の広野に蘇民将来の庵があります。貧しいけれど慈悲のある人です。そこに宿をお求めなさい」と薦めました。牛頭天王がそこへ行くと、蘇民将来は貧しい食料を彼に給し、歓待しました。歓待した翌日、「私の隼鶏という宝船で行くと速いでしょう」と自分の乗船を貸しました。牛頭天王は無事南海に着き、そこで二十一年を過ごし、頬梨采女との間に八人の王子を得、眷属も八万四千六百五十四神になりました。やがて后妃や一族を連れて広遠国に攻め入り、巨旦らを殺し、あの婢を助け出し、蘇民将来に広遠国を与えました。事前に「急々律令」の文字を書いた赤い札を蘇民将来たちに配り門口に貼らしておきました。牛頭天王は蘇民将来に「のちのよに寒熱の病気にかかれば、それは我々のせいである。だが、お前の子孫だけは病にかからないように二六の秘文を授けよう、五節の祭礼を違えず、二六の秘文を収めて厚く信敬せよ」と言いました」
由紀が、
「この真備バージョンには、ソロモンがタルシシ船でシバの女王ビルキースと出会い子をなした物語が盛り込まれているのよ」
坂上が、
「モーゼが出エジプトで紅海を割って渡った神話も、僕の考えでは世界中に変形バージョン流布していると思うんだ。ラーマーヤナの中で「コーサラ国の王ラーマは勇気溢れる、徳の優れた王子でした。そのラーマが自分のお腹を傷めた息子を王位に即けたいと願う継母の奸計に陥れられ、愛妻のシータと弟のラクシュマナーの二人だけを伴って流浪の旅に出ます。旅の途中、ラーマは愛妻のシータを魔王ラーヴァナにかどわかされますが、諸国遍歴の末、霊猿マヌマットに助けられ、ついに魔王の本拠地であるセイロン島の対岸迫ると、猿の大軍がやってきて橋を作り、ラーマとラーマの大軍を島に渡し、シータを救い出してめでたく都に戻り王位に就きます」セイロン神話としても残っているんだ」
伊集院が、
「それが、ジャワの伝説では「ネズミジカはかねがね河を渡ろうと思っていたが、洪水で水嵩が増してとても泳ぎ切れそうにない。そこで、岸に立ってワニを呼んで「私は今度王様の命令で、お前さん達の頭数を調べに来ました」と言った。ワニは一列に並んで、こちらの岸から向こうの岸まで続いた。ネズミジカは「一つ、二つ、三つ」と数えながら、ワニの背中を踏んで対岸に渡り終わると、ワニののろまさを嘲った」となるんだ。それが古事記の「因幡の白兎」ではワニは変わらないもののシカがウサギに変わり、大国主の命が登場して丸裸になったウサギを助ける話になっているんだ」