翌早朝、杖刀の兵を従えて大和川を下ったミチタリは日下の津の傀儡館で小休止した。館の主の紫門が挨拶に現れ、
「姉の詩音がお世話になっております。羅尾にも良くして頂けありがとうございます」
「何を仰いますか、詩音様には、こちらがお世話になっております。羅尾殿にも同様です。先般は我が長男の出産の伝達を父王にしていただけ、この度の帰郷にも尽力を頂いており、御礼を申し上げる」
「それでは、お言葉に甘えて、姉にお言付けをお願いします。我にも長男が生まれたとお伝え下さい」
「それは、おめでとうございます。お名前はなんと」
「紫苑と名付けました」
「良い名ですね。詩音様にも、足庭様にもお伝えいたします。そうじゃ、筑紫探索のお礼を改めて申し上げます。お陰で筑紫奪還が為りました。ありがとうございます」
「ご信頼を頂いたお陰です」
ミチタリは瀬戸内を辷り、文身国に寄り、改めて爺婆に筑紫奪還の報告を行うとと共に、土師氏の長に太子の乳母をお願いしたと伝えた。
「土師氏の長は良く知っとるよ。随分高齢になっとろうが、安心者よ」
「お顔見知りでしたか」
「纏向の王宮でよく一緒に遊んでおったよ。良き男じゃ」
「そうでしたか、安心いたしました」
柳井水道に帰着したミチタリは父王に見えた、
「紫門殿にも男の子が生まれておりました。紫苑と名付けたそうです」
「詩音にも報告してくれ」
「我が子の乳母に土師氏の長が名乗りを上げてくれましたので、お願いをいたしました」
「土師氏の長は先代の大王位就任に骨を折ってくれた。それは良かった。帰着早々で悪いが俀国の新体制の骨格を近く発令したい。お前には竹斯国の王を務めて貰いたい。良いな」
「畏まりました」
「私の弟の次郎には東表国を改め豊の国とし豊国王を務めて貰う。三郎には私の補佐役を務めて貰う」
「分かりました」
「出雲国王にはお前の弟を充てる。秦王国の王には三郎の長男の小太郎を任命する。この柳井水道の周防の国は私の直轄地とする」
「何時、着任すれば」
「可及的速やかに着任してくれ」
「直ちに準備いたします」
新体制を固めた足庭は盟友、平群の長に就いている弾と久し振りに酒宴を催し、
「弾殿、此度の戦の尽力、改めて御礼を申し上げる」
「何を改まって、礼を言わねばならんのは我の方じゃ。存分に活躍の場を与えてくれて、息子達に自慢が出来た」
「弾、言い難いのじゃが、今少し尽力して頂けないか」
「水臭いの、何なりと」
「高句麗に渡って下さらんか」
「それはまた大儀な、毒食わば皿までじゃ、共に祖先が過ごした所縁の地、承知した」
「交易と外交に本腰を入れようと思うてな、琉球には三郎と東日流隊に行って貰うつもりじゃ」
「それでは、我には坂上隊を付けて下さらんか」
「承知した。坂上隊に指示を出しまする。早急に渡航船を造りましょう。半島の東側を北上するとなれば季節風の治る来春に出立されるのが宜しかろうと存ずる」
「我も急ぎ渡航船の準備に掛かろう」
「それと、新羅の沿岸を通過されるので、念のため新羅の王族達の同族の中臣と蘇我の然るべき者を同乗させましょう。それに、高句麗を出て既に数百年が経ちました故、土木技術や天文学が進歩しているやも知れません。石工の若者と天文学者を一緒に連れて行って下され」