道庭は上宮聖徳の立太子の儀を槻広場で盛大に催した。上宮の乳母を務める土師氏達に見守られ煌びやかな衣装に身を包み道庭に譲られた馬具を装備した馬に跨がり広場を巡った。
久し振りの明るい儀式に飛鳥は沸き立っていたが、上宮聖徳の弟の乳母を買って出ている太秦の若党が苦い思いで見物していた。
「綱手様、そろそろ弟君の大王位就任に向けて手を打って参りましょうよ」
「時期尚早じゃ」
上宮聖徳は飛鳥大寺で学問の師の恵慈に教えを請うていた。
「恵慈様、斑鳩に爺様の供養寺を建てたいのですが」
「足庭様には大変お世話になりました。愚僧も精一杯、協力しましょう」
「どんな建物がいいですか」
「塔とお堂の二つが良いかな。塔の後ろに御堂を造りましょう。棟梁や瓦博士や皆を集めます」
「お願いします」
飛鳥大寺を建設した技術者が斑鳩の建設予定地に集まり、太子が、
「皆様、ご参集賜り、ありがとうございます。この地に足庭様の供養寺を建てたく存じます。大寺を手掛けた皆様のお手をお借りしたく存じます。よろしくお願いします」
恵慈が、
「塔と御堂の二つを作りたい」
太子が、
「素朴で簡素な趣にしたく存じます。ご意見を下さい」
棟梁が、
「弁柄色や緑青色を使わないで柿渋色か素木仕上げを試してみます」
瓦博士が、
「大寺の軒丸瓦は素弁十葉蓮華文でしたが、更に簡素な六弁の素弁蓮華文にしましょう」
石工頭が、
「二上山の礫石と緑石を腰壁や敷石に使いましょう。礫石の堅さを確認します」
露盤博士が、
「塔の相輪の水煙や九輪も簡素にしましょう」
恵慈が、
「塔は三重にしよう、寂しければ層毎に裳裾をつけましょう」
太子が、
「ご議論頂きありがとうございます」
棟梁達が、
「早速に資材の手当を始めます」
太子が、
「よろしくお願いします」