「上宮聖徳」11

 飛鳥の王宮で道庭が久し振りに寛いでいると、鬼前太后が歩み寄り、

「そろそろ、上宮聖徳の正妃を決めなければ成りませんね」

「だれぞ、心当たりがあるか」

「播磨の文身国に大国主様の血を引いた干食姫がおられます」

「その姫なら上宮も面識があったかな」

「恵慈様の講義に上宮の学友を捜す折りに妹御が居られると聞いていました」

「いくつに成られた」

「十二と聞いております」

「そうか直ぐに使者を立てよう。上宮は爺様の供養寺造りに忙しいようじゃが、我から言い聞かせよう」

 道庭は上宮を王宮に呼び、

「供養寺は順調かな」

「はい、恵慈様や棟梁達のお陰で上手く進んでおります」

「立太子式を済ませたので、次は正妃選びじゃが、恵慈様の講義に文身国の太子が来て居ったが覚えているか、干食姫という妹御が居るそうじゃ。聞いて居ったか」

「はい、聞いております」

「十二になるそうじゃが、その姫で良いな」

「よろしくお願いします」

「しらす干しの様な嫋やかな姫に育っているかな」

「いえ、ちりめんの如く、しゃきしゃきに成って居られるかも」

「言うのう。それでは婚儀の使者を立てるが良いな」

「お願いがございます。供養寺の御堂に爺様のお姿を掲げたいのですが」

「なれば、黄文を召して描かせれば良いぞ」

「ありがとうございます」

「それと、斑鳩の邸、正妃を迎えられるように広げなければ成らんが、それも任せて良いかな」

「承知いたしました。棟梁達に相談いたします」

 上宮は斑鳩に戻り、再び恵慈に教えを請うた。

「爺様のお姿を描くのに絵師の黄文を使えば良いと言われました。どんな絵を描けば良いでしょうか」

「足庭様に弥勒菩薩になって頂きましょう」

「恵慈様に教わったのは未来に下界に降りて衆生を救う菩薩ですね」

「よく、覚えて居るな。お堂の壁に描いて貰いなさい」

「ありがとうございます。黄文絵師にお願いをいたします」