「日出処の天子」38

 夏を迎えた博多那の津では隋に向かう使節団の船舶が出港準備を終えて住吉大明神に航海の安全を祈願した乗組員の乗船が始まり、見送りに出た足庭が使節の身狭寛徳に声掛けをした。 「安全を優先して下され。表敬訪問ゆえ気楽に務められ […]

「日出処の天子」37

 九重山系の山間に逼塞した九州倭国額田王の柵に百済から使者がひっそりと訪れ、 「余泉章と申します。よろしくお願いします」 「額田じゃ、よう参られた」 「女王様、中国の中原に隋という統一国家が誕生し高句麗と度々衝突しており […]

「日出処の天子」36

 平成二十四年十二月、古代史サークルのメンバーがサンドイッチ店で四年生の送別会を開いていた。西園寺が、 「坂上、鬼が笑うかも知れないが、来年の学園祭のテーマは高松塚とキトラ古墳にしないか」  美佳が、 「何よ唐突に来年の […]

「日出処の天子」35

 俀国暦吉貴五年、天子足庭は柳井水道奈良島の王宮で新年の参賀を受けていた。そこに高句麗駐在武官の任務を終え、帰国したばかりの坂上隊の士官が報告に参殿した。 「坂上武麿、高句麗駐在の任務を終え帰国いたしました」 「波浪を越 […]

「日出処の天子」34

 筑紫野も夏の盛りを迎え、水田が緑一色に染まる中、足庭と三郎は博多に完成させたばかりの鴻臚館で膝を交えていた。 「三郎殿、それでは高句麗へ早急に使いを出しましょう」 「畏まりました」 「それから琉球の領事は誰がよいかの」 […]

「日出処の天子」33

 東日流十三湊に帰着していた、安倍博麻呂は岩木山の山麓に建つ総領主の館を訪ね長髄彦の末裔に拝謁して、 「俀国の筑紫奪還は無事終了いたしました」 「それは祝着であった」 「足庭様の強い要請があり、琉球に三郎様を案内いたしま […]

「日出処の天子」32

 大和飛鳥に夏が訪れ、稲田が緑一色に埋め尽くされた頃、羅尾は学問僧の恵慈を甘樫の丘に案内し、飛鳥大寺建設予定地を眼下にしながら、 「恵慈様、右手一帯が飛鳥の官衙です。その南にある丘陵が島の庄で大きな方墳が先代、広庭様の陵 […]

「日出処の天子」31

 ミチタリは高砂に戻り、文身国の祖父母に、 「大変、お待たせをしました。飛鳥に参りましょう」  婆が、 「鬼退治をなされたか、黍団子を作りました。お土産になされ」 「子鬼でございました。団子ありがとうございます。さすれば […]

「日出処の天子」30

 東航を続けるミチタリは赤穂の次の高砂で文身国の王宮に上がり、祖父母に見え、 「兵站に一方ならぬご尽力を賜りありがとうございます」 「我ら大国主一族の悲願を達成して下さり喜びに堪えませぬ。お礼を申し上げるのは我らのほうじ […]

「日出処の天子」29

 弾が報告を続けた、 「隣国、隋との衝突の危険が迫っている時に飛び込んだ我らの願い事は全て聞き入れて頂けました。石工も天文学者も尚の若者も勉学に来たものは全て受け入れると、更に学問僧の派遣と石工と天文学者が帰る時は絵師を […]